選考委員長
薬袋 奈美子
日本女子大学 家政学部 住居学科 准教授
「個性が輝く“ひと・まち・くらし”づくり」というタイトルがある通り、応募書類からは、地域での課題を市民活動だからこそ持ち得る視点で、仲間と手を取り合って活動している、あるいは始めようとしていることが感じられました。1都7県から、スタート助成1年目に174件、そして継続助成に50件もの応募があったことを、大変心強く思います。選考の様子を簡単にご紹介します。
スタート助成1年目は、風呂敷を広げすぎずに、1年間で実現できる見通しがあるのか、募集要項にも示されていた地域の様々な人や組織との連携・応援の可能性が重視されました。スタート助成2年目は、一年間の試行錯誤の連続の中での計画の実現に加えて、地域の新たな参加者とのつながりが作られ始めているかも、大切にされました。
スタート助成3年目は、ポスターセッション形式で、書面だけでは読み取れない熱意も含めて、2年間の活動成果を確認した上での審査となりました。自治体や地域からの応援が得られ、自立できそうな団体もあり、心強く感じました。また、地域とのつながりだけではなく、コアメンバーとなる仲間を得られそうか、という点も議論になりました。報酬ではなく、お互いの信頼関係とミッション(活動目的)への共感を通じて、共に活動する仲間を見つけられる組織運営力があるかどうかが問われるわけです。市民活動は、初めは仲間が少なくても、活動をしながら共感の輪を広げ、多角的な視野と様々な技術・知識を持った複数の中心的な活動メンバーを募ることができれば、活動は地域にしっかりと根付きます。
ステップアップ助成は、助成金額の上限が100万円ですから、まとまった活動ができます。書類審査に加えて、各団体に活動成果と今後の計画についてプレゼンテーションを行っていただきました。審査で議論になったことは、組織の内外において活動を支える仲間が十分にいて、新たなステージに向かって歩み始めているのか、という点でした。思いが強すぎた団体や、助成金終了後の経済的な基盤に不安を感じる団体もありましたが、この一年で次の体制づくりについても意識いただけると期待して助成を決定しました。
応募いただいた全団体に助成ができると良いのですが、財源が限られていますので絞らざるを得ませんでした。しかし、この“絞られる”という緊張感があるからこそ、各団体の皆さまも、次のステップに向けて工夫し、応募されたのではないかと思います。中には、募集期間直前に開催されたフォローアップミーティング(スタート助成1・2年目対象)のアドバイスが有効だった団体もあったのではないでしょうか。今回ご縁の無かった団体の方も、今後も様々な機会にチャレンジされることを願っています。
手前味噌になりますが、2015年度秋から始まったNHKの朝の連続テレビ小説“あさが来た”は、私の勤める日本女子大学創立をモデルにしたドラマでした。創立者の成瀬仁蔵は、明治時代に、女性が社会を変える力を持つと信じ、女性の視点で課題だと思うことを研究し、社会に還元することを一つの柱として本学を創立しました。そして学生に“信念徹底”“自発創成”“共同奉仕”の三つの言葉を残しましたが、これは市民活動を発展させる際にも大いに力になる言葉です。
社会で課題を見出した時に信念を持って取り組み、従来の方法にこだわらずに挑戦し、仲間と助け合って実現する、と読みかえられます。これは、市民社会を実現する団体に4つのステップを用意して巣立たせようとする「中央ろうきん助成プログラム」に相通じるものを感じます。想定していなかった自然災害が発生し、変化の激しい社会では従来と異なる課題が次々に挙がります。今後の「中央ろうきん助成プログラム」と、助成対象団体の活動の発展に期待しています。