20代 人生100年時代、お金と人生の手引き

寿命が伸び、IT化が進み、テレワークが普及し、新たな働き方が模索されています。長年、悩める女性たちのお金の相談にのってきたファイナンシャルプランナーの中村芳子さんは、「女性も一生働こう」と20年前から提唱し続けてきました。「人生100年時代」を生きることが求められる今、お金と人生にまつわる手引きを中村さんに聞きました。

人生100年時代の身の振り方とは…

20年以上前から「女性も一生働こう」と言い続けています。最近は、やっと時代が追いついてきたかなと感じています。その背景には、社会の変化があります。少しずつ、女性が働き続けるための制度ができてきました。うれしいですね。一方で結婚しない女性、離婚する女性が増えています。生きていくために、自分自身を養う経済力は身につけておきたいですね。いずれ結婚するつもりでも、良い相手に巡り合わないかもしれない。結婚しても離婚しない保証はない。夫の収入がずっと続くという保証もないのですから。将来のことは見通せない。だからこそ、自分で生きていける力が必要だと私は思います。

自分の“願望”わかっていますか?

私たちは毎日、膨大な情報にさらされ、それを処理しています。日々の情報処理で脳が疲弊する人も増えています。インターネットは常に欲望を刺激する仕組みになっていて、他人の生活や持ち物がとてもいいものに思えて「何が欲しいのか」「どういった生活を望んでいるのか」がわからなくなった人、実は多いと思います。

私の娘が保育園に通っていた時のエピソードです。5歳の女の子に「何が欲しい?」と尋ねると、「お金」と答えたんです。「なんで?」って掘り下げると、「チョコレートが欲しいから」と返ってきました。この子の本当に欲しいものは、お金ではなく「チョコレート」だったんです。

同じことが大人にも言えます。少し目をつぶって、目標とする年収を思い浮かべてみてください。実は、手に入れたいのはその年収ではなくて、その年収があったら手に入ると思っている「暮らし」のはずです。どういう暮らしでしょうか? 一度、朝起きてから寝るまでの理想の暮らしをイメージしてみてください。そうしたら、その暮らしを実現する方法を考えてみましょう。年収にかかわらず、いますぐできることがあるはずです。

給与、貯蓄、目標、そして人生もシンプル思考で!

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お金は自分がやりたいことを実現する「ツール」で、目標ではありません。漠然とお金を求めるのではなく、自分が何をしたいのか、情報に惑わされずに知っておくことが大事。わかっていたら、お金を生かして満足を手に入れられます。わかっていないと、年収1,000万円、貯蓄5,000万円になっても、本当の喜びは手に入りません。

もしかしたら、明日のこと、来週のこと、来月のことで精一杯かもしれません。でも、日々のことに追われて過ごしていたらどうなるでしょう。何もしていないのに40歳になっていた、50歳になっていた……とならないよう、少しだけ立ち止まり、将来どうありたいのかというライフプランを考えてみてください。

わかりやすいのは、25歳、30歳、35歳など、年齢の節目ごとに、仕事や年収、プライベートなどの目標を書き出すこと。例えば、25歳までに100万円貯めて短期留学、30歳で結婚、35歳で2人目の子どもを出産といった具合。漠然とでいいので、将来をイメージしてみましょう。

できれば30代前半までに「自分の軸」を持つこと。自分の軸とは、生きていく上で自分にとって何がいちばん大切かということです。軸ができたら、その後の人生設計も立てやすくなります。そのためには、ネット情報に頼らず、共感できる著者の本を読む、尊敬できる人からリアルで話を聞く、新しいことに挑戦してみるなどがおすすめ。出会いが自分発見につながります。

新常態・ニューノーマルは生涯現役が理想!?

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人生設計を立てるとどんないいことがあるか。一つは、目標を立てることで進む方向が定まります。そうすると、それを実現できる可能性が高くなります。もう一つは、ライフステージが変わるごとにプランを見直し、戦略を立てることで、お金に関する漠然とした不安を感じにくくなります。不安のない人生はとても自由です。

自然災害や新型コロナウイルスの感染拡大など、予想外のことは常に起きます。人生にいろんなリスクがあることは知っておきましょう。でも、それを怖がる必要はありません。大切なのは柔軟であること。状況が変わったり予想外のことが起きたりしたとき、落ち着いて戦略を立てれば大丈夫。その際、一人で悩んだり煮詰まったりしないようにしましょう。ロールモデルとなる人を手本にしたり、先輩や友人など、人と会って話をしたりして、将来像や解決策を探っていってください。

結婚してもしなくても、子どもがいてもいなくても、経済的に自立していると、心にゆとりができ、夢を持つことができ、自分にも他人にも優しくなれます。経済的自立とは、ずっとがむしゃらに働くことではありません。仕事に没頭する時もあるでしょうが、少しペースを落としたり、ちょっと休んだり、方向を変えたり、新しいことにチャレンジしたり、いろんな形があります。そして、なにより大切なのは「働くことを楽しむ」ことです。働くことにはもちろん苦労がつきものだけど、楽しめたら、ずっと続けられますよ。

※この記事は朝日新聞社が運営しているウェブメディア「telling,」の掲載記事を再編集しました。

プロフィール

中村 芳子

ファイナンシャル
プランナー

中村 芳子(なかむら・よしこ)

東京・下北沢のオフィスで多くの人のお金の相談にのり、人生の悩み解決のお手伝いをしている。早稲田大学商学部卒。メーカー勤務を経て1985年に独立系ファイナンシャルプランニング会社に転職、女性FP第1号に。91年に友人と「アルファアンドアソシエイツ」を設立。『20代のいま、やっておくべきお金のこと』(ダイヤモンド社)、『いま、働く女子がやっておくべきお金のこと』(青春出版社)など著書多数。