30代 資格取得でキャリアアップ

働き続ける女性が増える一方で、終身雇用制度は崩壊しつつあります。長年にわたり悩める女性の相談にのってきたファイナンシャルプランナーの中村芳子さんは「会社に頼らず自活する力が必要」と話します。仕事に付加価値をつけたり、キャリアチェンジをしたりするための「資格」について、中村さんにうかがいました。

「資格を取りたい」 その心理は将来の不安から?

「資格」と一口に言っても、国家資格から民間資格、趣味を深める資格まで多種多様。今回は「キャリアに直結する資格」についてお話ししますね。資格を取りたい理由として、キャリアアップ、キャリアチェンジなど様々ありますが、その根本には「将来の不安」が潜んでいることがあります。

特に、シングルの女性で、このまま一生結婚しないかも、と考えている人ほど、不安を感じています。経済的に自立して生きていこうと思ったとき、頼れるのは自身のキャリア。大学院へ行ったり、MBAを取ったりする女性も出てきています。

昔、女性が取れる資格といえばお茶やお花、着付け、裁縫などでした。それがお金を稼ぐ力、手段になりました。その世代が母親になり、娘に経済的な自立をしてほしいという願いから、「資格を取っておいた方がいい」とずっと勧めてきたんですね。以前から「資格は邪魔にならない」という考えもあります。でも、本当でしょうか。

「資格を取った先」までイメージ

「資格を取った先」までイメージ 「資格を取った先」までイメージ

資格はたくさん持っているけれど、どれも使っていない人たちがいます。女性に多いですね。資格を取ることが目的になっているのです。これは、もったいない。持っておいて損はないといっても、資格を取るには時間と費用がかかります。だから、「取った先」のことまで想像することがとても大切。

重要なのは「下調べ」です。例えばMBAに興味を持ったなら、実際に取得した女性に会って話を聞きましょう。できれば、3人ほどに聞いた方がいい。資格を取るまでの時間や費用はもちろん、その資格を使って今どんな仕事をしているか、以前の仕事内容と資格取得後の仕事の変化に至るまで、具体的に話を聞きましょう。資格を取った「その先」を現実的にイメージするためです。

「人探しは手間がかかるし、人見知りだから……」と思ったあなた。お金と時間をかけて資格を取っても、結局生かせないことになってしまうかも。「下調べ」の手間を惜しまないでください。

役に立つか知るためにも「下調べ」は必須

例えば「この先、自活できる資格」の一つとして公認会計士があります。企業の会計監査が主な仕事ですが、財務面や経営面のコンサルティングなど仕事の幅は広がります。

「簿記2級は?」という声が聞こえてきそうですが、結論から言うと「ないよりは、いい」程度。ビジネスの基本の知識だし、経理事務の職には役立ちますが、簿記2級がキャリアの上で武器になるかと言ったら、難しいのが現実。いまは、税理士資格を取っても、よい条件での就職が厳しくなっています。企業や個人事業主などの経理業務は、ITによる自動化がどんどん進んでいるからです。

現実を知ると、さっき申し上げた「下調べ」の重要さをより感じてもらえるはず。キャリアアップやキャリアチェンジのために取った資格が、現実には役立たなかった……とならないためにも、情報収集を怠ってはなりません!

必読! 資格を取る際の注意点

必読! 資格を取る際の注意点 必読! 資格を取る際の注意点

実際に資格を取ろうと思った際、注意しておくポイントを2点お話ししましょう。
1点目は、「資格商法」に騙されないこと。この資格を取れば、このセミナーを受講すれば、収入アップやキャリアアップが確実にできる、と謳うものはたくさんあります。しかし、現実には「確実」というものはありません。一般的に国家資格なら、就職や収入アップにつながりやすいケースが多いですが、任意団体が発行している民間資格はそうではないケースも散見されます。費用が高くてもわりと簡単に取れる資格は、実際にはキャリアアップや転職には役に立たず、収入アップにつながらないものが多いのです。

人は、自分が見たいもの、都合のいいものしか見ない傾向があります。ウェブでの情報集めは、特にそうなりがち。物事を判断するには客観的な視点が必要です。ひとりで考えて決めず、友人や家族、人生の先輩に相談してみてください。

2点目。受講料はクレジットカードやローンでなく、貯蓄から支払ってください。資格やセミナーに使うお金は「浪費」ではなく、自分への「投資」だと考え、財布のヒモが緩みがち。将来、収入が増えるのだからと、クレジットカードの分割払いやリボ払いで支払う人も少なくないようです。
私のところに相談に来られた30代の夫婦は、それぞれ違うセミナーへ参加するために、高額な費用をクレジットカードの分割払いで支払ったことで、自己破産寸前までいきました。セミナー受講後は収入が増えるはず、と見込んでいましたが、そうなりませんでした。取りたい資格があれば、まずその費用を貯めることから始めましょう。

「女性も一生働こう」と長年言っています。長く働くための武器になる資格もいろいろあります。ただ、はっきりしたビジョンや目的がなく、ぼんやりしたイメージで資格を取るのはやめておきましょう。資格を取ることを目的にするのではなく、まずは「下調べ」をして取った先のことを考えてから資格の勉強を始めてください。
「下調べ」をしたうえで、苦労して学んで得た知識、経験は、消えてなくなりません。キャリア作りには、紆余曲折がつきものです。その時々で、柔軟に変化し、調整していくことは、大切な一つの能力。自信を持ってくださいね!社会がどんどん変わっていくので、一生働くため、長く楽しく働くためには、「学び続ける」ことが欠かせません。「上手に学ぶ」は、これから生きていくための大切なスキルの一つですね。

※この記事は朝日新聞社が運営しているウェブメディア「telling,」の掲載記事を再編集しました。

プロフィール

中村 芳子

ファイナンシャル
プランナー

中村 芳子(なかむら・よしこ)

東京・下北沢のオフィスで多くの人のお金の相談にのり、人生の悩み解決のお手伝いをしている。早稲田大学商学部卒。メーカー勤務を経て1985年に独立系ファイナンシャルプランニング会社に転職、女性FP第1号に。91年に友人と「アルファアンドアソシエイツ」を設立。『20代のいま、やっておくべきお金のこと』(ダイヤモンド社)、『いま、働く女子がやっておくべきお金のこと』(青春出版社)など著書多数。