どうする? 親の介護のお金
いまから知っておきたい4つのポイント

親に老いを感じ始めると、先々が心配になるものです。「この先、介護が必要になったら、私の生活はどうなるんだろう。仕事は続けられるの? 費用は?」と……。親の介護は突然自分ごととなりますが、「相談機関があり、制度やサービスもあるから、必ずなんとかなる」と知っていれば、冷静さを失わないでいられます。親が元気なうちに理解しておきたい4つのポイントを紹介しましょう。

1. 介護は「マネジメント」と考える

介護といえば、食事介助やトイレ介助、入浴介助などの「身体介護」を思い浮かべる人が多いと思います。けれども、それらだけを介護と捉えると、同居や離職が必要に。通常、入浴は日に1回としても、食事は日に3回、トイレは複数回です。サポートするには、ずっとそばにいなければなりません。

少し発想を変えて、「親の生活をマネジメントしよう」と考えてみませんか。親の状況を観察して、本人のできること、できないことを確認し、ビジョン、課題、予算などを把握したうえで、医療や介護の専門職と連携します。そうすれば、子が身近にいなくても親を支える体制を築くことができます。「マネジメント」も介護なのです。

介護体制を構築する際に役立つのが、「介護休業」です。法律に定められており、対象家族1人につき通算93日まで3回を上限に分割取得できます。通院の付き添いや介護サービスの手続きを行う際に使える「介護休暇」や「残業の免除」などもあります。自分の勤務先ではどのような「介護休業制度」が設けられているか、人事や総務に聞いてみましょう。

2. 悩みは「地域包括支援センター」に相談

初めての支援や介護となると、不安や疑問が山積みだと思います。費用のことも心配ですね。各自治体では高齢者とその家族が気軽に相談できる「地域包括支援センター」を設置しているので活用しましょう。「どんな介護サービスを利用できる?」「もしかして、認知症?」「費用の軽減制度は?」など無料で相談できます。介護保険サービスの申請もサポートしてもらえます。

住所地ごとに担当の地域包括支援センターは決まっています。親の担当となるセンターの所在地が分からない場合は、ネットで検索するか、市区町村の介護保険担当窓口に問い合わせてください。スタッフは介護のプロですから、「こんなことを聞いてもいいかな」といった遠慮は無用です。

3. 介護にかかるお金は「親のお金」で

介護保険で受けられるサービスには「居宅サービス」「施設サービス」などがあります。利用したい場合はまず地域包括支援センターに申請します。認定調査を経て要介護度が決定(7段階、もしくは非該当)。要介護度に応じてサービス利用できる限度額(表)が定められています。利用者の負担割合は所得によって1~3割。介護保険サービス以外にも、自治体サービスや民間サービスもありますが、いずれにしろタダではないので予算立てが必要です。

心身の状態や、所得によっても介護にかかる費用は個別に違いますが、平均月額を出した調査があります。在宅介護の場合で月4万6,000円、施設介護で月11万8,000円という結果です(「平成30年度生命保険に関する全国実態調査」公益財団法人生命保険文化センター)。

※金額は介護報酬の1単位を10円として計算。支給限度額は標準的な地域の例。
※福祉用具購入や住宅改修は個別に限度額が決まっており、毎月の支給限度額には含まれない。

介護の予算を立てる場合、大前提として、「親本人のお金を充てる」方向で考えてください。なぜなら、親の介護は親の自立を応援するために行うことだから。本人のお金を使うのは当然です(いつか、あなたに介護が必要になったら、そのときはあなたのお金で)。

しかし、多くの子は「親の懐状況を知らない」と言います。しかし、知らないと、どんな介護ができるかプランを立てることはできません。金銭的にゆとりがあれば、民間サービスなども使えますが、逆に苦しいなら軽減制度を賢く使うことも重要に。月々の負担額が定められた上限を超えると払い戻しされる「高額介護サービス費」などがあります。

施設介護を検討する場合も、入居にかかる費用の幅が広いので親の資産状況を把握することは必須。聞きにくくても、親が元気なうちに少しずつ下記のことを聞いて、いざというときにどのお金を使えばよいか相談しておきたいものです。

1. 預貯金
2. 月々の年金額
3. 民間医療保険や生命保険
4. 不動産
5. ローンや負債

4. 施設介護も選択肢に

さまざまなサービスを利用しても、在宅での生活が難しくなることがあります。そのようなときには施設介護の検討を。ただ、施設の種類は多く複雑です。施設ごとに行うケアの内容も異なります。必ず見学してください。親の資産状況と照らし合わせる必要もあるでしょう。

※要介護度および施設の種類や居室の種別に応じて、1日あたりの介護サービス費用が定められており、介護サービスの1~3割が自己負担となる。初期費用は発生しないが、食費・居住費・日常生活費などは全額自己負担(所得に応じて食費・居住費は軽減される)。

「いくらかかるのか」は施設ごとに違いがあるため一概には言えませんが、あえて目安の金額を言うとすれば、月5万~40万円くらいが必要です。もし、預貯金があまりなくて、月々の年金も少ない場合には、介護保険施設の「特別養護老人ホーム」に的を絞ります。例えば、蓄えが650万円に満たず、国民年金のみ受給(満額で年約78万円)の親なら、月6万円(食費、介護費込み)ほどで入居できます。待機者の多いところもある一方、地域を広げて探せば、待たずに入れるところもあります。逆に金銭的にゆとりのある親なら、民間の有料老人ホームなども選択肢となるでしょう。施設探しには見学などで時間を要するので、先に紹介した介護休業を利用するのも一案です。

仕事に“情報”が必要なのと同様、介護も情報戦の側面があります。必要なサービスや制度を探し、採り入れれば、家族の負担は大幅に軽減します。経済的にも精神的にも、体力的にも共倒れを防ぐことができます。

ただし、うまくマネジメントするには、家族間の信頼関係があってこそ。まず、親がどのような生活を望んでいるか知る必要があります。お金のことについても、本音で話し合うためにはコミュニケーションを深めることが第一歩ともいえるでしょう。

※このコラムは、2021年7月現在の情報を基に作成しています。

プロフィール

太田 差恵子

介護・暮らしジャーナリスト

太田 差惠子(おおた・さえこ)

NPO法人「離れて暮らす親のケアを考える会パオッコ」理事長。1993年ごろから老親介護の現場を取材。取材活動から得た豊富な事例をもとに「遠距離介護」「仕事と介護の両立」「介護とお金」などの視点で情報を発信する。AFP(ファイナンシャルプランナー)の資格も持つ。著書に『親の介護で自滅しない選択』『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本』など。