結婚や出産にかかるお金はどれくらい?知っておきたい基礎知識 結婚や出産にかかるお金はどれくらい?知っておきたい基礎知識

結婚や出産にかかるお金はどれくらい?
知っておきたい基礎知識

女性の生涯に待ち受けているさまざまな選択肢のうち、人生の中で大きなイベントでもある結婚や出産。収入や支出が変化したり、大きな出費が発生したりと経済面で大きな影響があります。いざ結婚や妊娠をしたいと思った時に、お金が足りないという事態は避けたいもの。そこで、やさしいお金の専門家の横川楓さんに、結婚や出産にかかる費用や、公的なサポートについて話を聞きました。

意外と知らない結婚・出産の費用

実際に結婚や出産を経験した人から、「こんなにお金がかかるのかと驚いた」という声をよく聞きます。それまで費用について考えたことがなく、経験して初めて知ったという人は意外に多いようです。現在具体的な予定はなく、自分が将来どのような選択をするか分からないという人でも、費用の相場感や公的な支援についての基礎知識を持っておけば、結婚や出産への意識が変わってきます。

結婚に向けた「婚活」という言葉が当たり前になり、婚活に能動的に出費する女性は増えていると感じます。今は婚活用のアプリや仲介サービスもたくさんありますし、女性と男性の所得の差が縮まって、男女で金銭的負担に差をつけるという感覚が薄まってきている人も多いはず。

一方で、今の20~30代は、そもそも手元に入ってくるお金が少なかったり、奨学金の返済を続けていたりする人も多く、お金に関しては自分のことで精一杯という人が多い印象があります。こうした影響で、結婚に対するお金のかけ方も変わってきています。

意外と知らない結婚・出産の費用

挙式・披露宴は平均362万円、コロナ禍で変化も

「結婚」自体は婚姻届を役所に提出するだけであるため、お金はかからないといえますが、ライフスタイルは大きく変わります。1人の家計だったものが、2人分を合わせて費用の分担などを決めていかなければなりません。特に住まいの費用は、実家暮らしや、2人で新たに部屋を借りて住むなど、さまざまなパターンが考えられます。

「結婚式」の費用をみてみましょう。リクルートブライダル総研の「ゼクシィ結婚トレンド調査2020」によると、コロナ禍が本格化する前の2019年4月~2020年3月では、挙式と披露宴の費用総額は全国平均362.3万円でした。親族や友人を招待したら100万円以上かかるのが普通で、料理や衣装などを豪華にすればするほど費用は高くなります。

しかし、最近は大勢のゲストを招いた大規模な式を挙げたいという人は減っている印象です。さらに、コロナ禍で直接ゲストを招きにくくなったことで、さまざまな形の結婚式を選ぶ人も増えています。写真に残すことを重視したフォトウェディングなら、衣装代や撮影代など10万円程度に収められることもありますし、オンライン配信の結婚式は、これまで出席できなかった遠方に住む人にも見せることができる点が長所です。今後はさらに、結婚式のスタイルも柔軟に考える時代になっていくと思います。

「新婚旅行」の費用は、平均65.1万円(同調査)。調査当時に比べて、新型コロナの影響で当面は海外に行くことが難しいでしょうから、逆にコストカットができる環境だといえます。そこはポジティブに受け止めて、代わりに住居費や子どもの教育費に充てるという発想に転換してみましょう。

自治体によっては内閣府の「結婚新生活支援事業」制度で、新居の住宅費など新生活にかかる費用の支援が受けられる場合もあります。夫婦の年齢や世帯の所得の上限といった条件がありますが、確認してみると良いでしょう。

挙式・披露宴は平均362万円、コロナ禍で変化も

知っておくべき出産・育休のサポート

「出産」は、正常分娩にかかる費用が全国平均で46万217円(2019年度、厚生労働省保険局調べ)です。里帰り出産をしたり、設備やサービスが充実した産院を選んだりすると、その分費用がかさみますが、50万円程度がベースになります。

出産や育児のために、国や自治体はさまざまな助成金やサポートが受けられる制度を用意しています。

妊娠したことを自治体に届けると、「妊婦健診」の費用を助成してくれる回数券がもらえます。助成額は自治体によって異なりますが、だいたい14回分の健診費用をまかなうことができ、費用がオーバーしてしまった場合は追加の助成をする自治体もあります。出産した時には、公的健康保険から子ども1人当たり42万円の「出産育児一時金」が一律に支給され、会社勤めの人は「出産手当金」も受けられます。

会社員の人が育休を取得した場合、雇用保険から「育児休業給付金」が支給されます。さらに、産休・育休等の期間中は健康保険や厚生年金の保険料が免除されます。自営業の人は、国民年金保険料の支払いが4カ月間免除されますが、出産手当金や育児休業給付金などのサポートがないため、育休中の生活費の準備をしておく必要があります。また、育休中に受け取る育児休業給付金は非課税なので所得税はかかりませんが、住民税は前年の所得に応じて決まるので、納付するのが困難な人は「猶予」や「減免」の措置がないかを自治体に問い合わせてみましょう。

子育てに関しては、国から「児童手当」が支給されます。自治体によっては、子どもの医療費や教育費などをサポートして、子育ての環境が整っていることをアピールしているケースもあります。

「先取り」と「後取り」 2通りの貯蓄で備えよう

それでは、独身の間にお金をどのように準備していけば良いのでしょうか。手取り収入は増えずに物価が上がっていく時代で、手元に残るお金も少なくなっています。収入の何%を貯金しましょうとは一概には言いにくいため、資産形成も流動的に考えていくべきです。

私が提案するのは、毎月決まった金額を貯蓄する「先取り貯蓄」と、余ったお金を貯蓄する「後取り貯蓄」のミックスです。従来であれば先取り貯蓄が最適だといわれてきましたが、大きな金額を貯蓄していると、家計に余裕がなくなる人が意外に多くいます。生活費が足りなくなってしまうと、結局は貯蓄用の口座から切り崩してしまうことになり、本末転倒です。

そこで、先取り貯蓄を無理のない金額に設定しておいて、出費が少ない月に後から貯蓄して流動的にお金を積み立てるという方法なら、ハードルは低いはずです。先取り貯蓄が少額であっても、成功体験を積み重ねていくことで、ポジティブにお金を貯めていけるのではないかと思います。

資金の余裕が出てきたら、「つみたてNISA」などの投資も始められます。ただし、貯蓄をやめてしまうのではなく、貯蓄に回す金額と投資に回す金額は半々ぐらいが理想的な状態です。

結婚の予定がなくても、知識を持つことが大切

20代のうちからはっきりと何歳で結婚して、何歳で出産をすると明確に決めてその通りに動いているという人は、今はそう多くはないでしょう。まずは自分の人生を考えたい人や、目の前の仕事を頑張りたい人、そもそもパートナーがいないという人や、結婚しても子どもを産まない選択肢の人、パートナーなしで子どもを一人で育てたい人もいます。さまざまな生き方が選べる時代になって、決まったライフプランで資金計画を練るのは難しくなっています。

それでも、お金の知識を身につけることは、結婚・出産に関わることを含めて大切だと思います。必要な時に必要な知識をしっかり持っていることで、ポジティブな選択肢を選べるようになるのです。お金を増やしたいと思ったら、まずは知識を得たり調べたりすることが重要。そのための情報収集は、官公庁や金融機関のサイトを見る方法が確実ですが、分かりにくいという人には、お金に関する書籍を読むことをおすすめします。一般の人の作った動画やウェブサイトと比べて、出版社の編集者や校閲を経て信頼性が担保されているからです。

そして、パートナーがいる人は、早いうちから2人でお金のことをしっかり話し合うことが大切です。お互いのお金に関する認識を合わせてみて、将来について一緒に考えていくことが、幸せな結婚への第一歩だといえるでしょう。

※このコラムは、2021年10月現在の情報を基に作成しています。

プロフィール

横川 楓

やさしいお金の専門家/金融教育活動家

横川 楓(よこかわ・かえで)

1990年生まれ。明治大学法学部を卒業し、明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科へ進学。24歳で経営学修士(MBA)を取得。現在はやさしいお金の専門家 / 金融教育活動家として、「お金のことを誰よりも等身大の目線でわかりやすく」をモットーに、若い世代を中心にお金の相談に乗るほか、セミナー、マネーコンテンツ企画・監修、各種メディア執筆など、さまざまなお金の知識の啓発活動を行う。著書に『ミレニアル世代のお金のリアル』(フォレスト出版)。