不妊治療にかかるお金はどれくらい?
不妊を心配したことがある夫婦は3組に1組、検査や治療の経験は5.5組に1組といわれています。不妊治療は妊活の選択肢の一つになりつつありますが、気になるのは「お金」のこと。費用の目安や治療に関する助成金について、妊活や不妊治療のお金に詳しいファイナンシャルプランナーの宮野真弓さんに聞きました。
不妊を心配「3組に1組」
体外受精などの高度な不妊治療で生まれた赤ちゃんは年間5万6,000人を超え、全体の16人に1人の割合になります(2018年)。国立社会保障・人口問題研究所の「第15回出生動向基本調査」(2015年)によると、不妊を心配したことがある夫婦の割合は35.0%。実際に検査や治療を受けたことがある夫婦は18.2%で、子どものいない夫婦では28.2%にのぼります。
不妊治療は検査から始まり、それぞれの原因に合わせて「タイミング法」「人工授精」「体外受精」などの治療を受けることになります。治療内容によって健康保険が適用されるものとされないものがあり、適用されない「自由診療」は医療機関によって金額が異なります。多くの検査やタイミング法はすでに健康保険が適用されているので、それほど高額にはなりませんが、高度な治療に「ステップアップ」すると一般的に費用が高くなり、体外受精や顕微授精は1回あたり数十万円かかります。
厚生労働省が公表した「不妊治療の実態に関する調査研究」(2020年度)によると、全国の医療機関に尋ねた人工授精の費用は1回平均で約3万円、体外受精は約50万円。また、同調査の当事者アンケート(20~40代の1,636人)で不妊治療にかかった費用の総額を尋ねると、治療内容によって大きな差がありました。検査のみやタイミング法の経験者は10万円未満の割合が約7割。一方で、体外受精や顕微授精を経験した人は、医療費の総額が100万円以上の割合が半数を超え、200万円以上を費やした人も3割弱いました。
※内閣府「選択する未来2.0」第3回会議資料などを参考に作成
また、遠方の医療機関に通う場合は交通費の負担も重くなります。自分の考えで漢方薬やサプリメント、鍼灸(しんきゅう)、ヨガなどに取り組む場合にも、費用がかかることを念頭に置いておきましょう。
拡充された国の助成制度
政府は2022年度から、体外受精などの高度な不妊治療を健康保険に適用する方針を打ち出しています。それまでの暫定措置として、2021年度は「特定不妊治療費助成制度」が拡充されました。特定不妊治療(体外受精と顕微授精)にかかった費用に対する助成です。改正により、法律婚だけでなく事実婚も対象になり、かつてあった所得制限は撤廃されました。
※2021年1月1日以降に終了した治療から適用
※助成回数は、治療期間の初日における妻の年齢で判断。治療期間の初日とは、採卵準備のための投薬開始などの日。
国の助成制度による給付は、治療1回につき30万円。採卵を伴わない凍結胚移植や、採卵しても卵が得られずに中止した場合は1回10万円です。男性不妊治療を行った場合は30万円で、男性不妊治療と体外受精を併用した場合は最大60万円になります。また、自治体によっては国よりも手厚い助成を行っているところもありますので、制度を確認してみてください。
助成金はいくらもらえるの?
では、実際にどれくらい助成が受けられるのか、具体的な事例を示しながら解説していきます(治療費は目安です)。
《ケース1》一般不妊治療
・女性の治療開始時の年齢……………33歳
・不妊検査………………………………3万円
・タイミング法3回……………………4万5,000円
・人工授精2回…………………………5万円
→ケース1の治療内容は「特定不妊治療」にあたらないため、国の助成金は受けられません。ただ、住んでいる自治体によっては不妊検査やタイミング法、人工授精に対する助成がある場合もあります。
《ケース2》高度不妊治療(体外受精)
・女性の治療開始時の年齢……………40歳
・採卵~体外受精~新鮮胚移植1回…45万円
・凍結胚移植1回………………………20万円
→国の助成は計40万円(採卵~新鮮胚移植30万円+凍結胚移植10万円)
《ケース3》男性不妊
・女性の治療開始時の年齢……………38歳
・顕微鏡下精巣内精子採取術1回……30万円
・採卵~顕微授精~新鮮胚移植1回…50万円
→国の助成は計60万円(男性不妊治療30万円+採卵~新鮮胚移植30万円)
保険適用まで待ったほうがいい?
これまで経済的な負担が理由で体外受精へのステップアップをためらっていた人は、国の助成が拡充された今年度は挑戦してみるチャンスです。パートナーや医師と相談して、体調や仕事との両立も考えながら前向きに検討してみてください。
「来年度、体外受精が保険適用されるのを待ったほうがいい?」と思う人もいるでしょうが、不妊治療は最初の一歩を早く踏み出すことが大切。特に女性は年齢とともに卵巣の機能が低下するため、少しでも早く治療を始めることが妊娠につながりやすいといえます。何通りもある治療法のうち、来年度にどれが保険適用の対象になるのかによって、治療の選択肢が狭まったり、費用負担が減らなかったりすることもあり得ます。“保険適用”だけにとらわれずに、ご自身に合った方法とペースで進めるとよいでしょう。
助成金を受け取るまでのローン活用も
国の助成金は後払いなので、まずは1回分の治療費を自分たちで準備する必要があります。手元の資金がないけれど治療を早く始めたい人もいるでしょう。金融機関の中には「子どもを授かりたい」と願うカップルを応援するローンを設定しているところもあります。例えば、中央ろうきんの「福祉ローン」は、育児や介護費用だけでなく、不妊治療を受けるための資金も対象になっています。
不妊治療をするうえで大切なのは、どこまで治療を望むのか、予算はいくらまでにするのかなどをパートナーと話し合うこと。不妊治療は必ず結果が出るものではなく、回数を重ねるごとに費用も膨らみます。そして、治療すると決めたら2人でそろって検査に行くことが、費用を抑える一番のポイントです。女性が必死に通院しても、原因が男性側にあったらお金も時間も無駄になってしまいます。国や自治体、勤務先の制度をフル活用して、できるだけ経済的な負担を抑えて取り組みましょう。
※このコラムは、2021年7月現在の情報を基に作成しています。
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