法改正でどう変わった? 男性も気になる? 育児休業中の「お金」のこと
男女ともに仕事と子育ての両立ができる社会を目指して「育児・介護休業法」(※)が改正され、2022年4月から順次施行されています。そこで今回は、主な法改正のポイントと、心配事のひとつである育休中の「お金」について詳しくお伝えしていきます。
※育児・介護休業法…育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
育休と産休の違いとは?
「産前産後休業(産休)」というのは、母体を保護する観点から、労働基準法で定められたものです。正社員、契約社員、アルバイトなどの雇用形態にかかわらず、本人が希望すれば産休を取得できます。出産予定日の6週間前(双子以上の場合は14週間前)から産前休業が、出産の翌日から8週間は産後休業が取得でき、そのうち産後6週間は本人の意思にかかわらず働くことが禁止されています。
一方、「育児・介護休業法」における「育児休業(育休)」とは、子を養育するための休業のことで、配偶者が専業主婦(夫)や育休中であっても育休の取得はできます。男女問わず取得可能な育休ですが、男性の育休取得の実態はどうでしょうか? 実は今回の「育児・介護休業法」改正には、男性の育休取得がなかなか進まないことが背景にあります。
改正のポイントは「産後パパ育休」と「分割取得」
2021年度の男性の育休取得者が13.97%と、過去最高を記録したことが話題になりましたが、女性の育休取得者が毎年8割強で推移しているのと比べて、その差はまだまだ大きく、今年3月に政府が掲げた「25年度に50%、30年度に85%」という目標には遠く及びません。
育休取得期間においても、やはり男女間の取得状況には大きな差があり、女性の取得期間の割合については「12カ月~18カ月未満」が34.0%、「8カ月~12カ月未満」が38.7%という状況に対し、男性は「2週間未満」の割合が5割超を占めています。
そこで、今回の法改正によって特に注目したいのが、22年10月施行の「産後パパ育休(出生時育児休業)」と「育児休業の分割取得」です。
産後パパ育休とは、妻が産休中の男性を念頭においたもので、子の出生後8週間以内に4週間(28日)を限度に取得でき、2回までの分割取得が可能です。また、産後パパ育休とは別に、時期や理由を問わず、分割して2回まで育休取得ができるのが「育児休業の分割取得」で、夫婦が交代で取得するなど、柔軟に利用することができます。
原則として、育休は子どもが1歳になるまでの間に取得できるものですが、1歳に達する日において保育所などに入所できない場合など、例外的な措置として1歳6カ月まで育児休業を延長することができます(再延長で2歳まで可)。
しかし、いくら制度が整備されても、職場に男性が育休を取得しづらいと感じるような雰囲気があると、利用を躊躇するかもしれません。
そのようなハードルを取り除くため、事業主に対して、育児休業を取得しやすい雇用環境の整備や、労働者への個別周知・意向確認の措置を義務化する法改正も行われています。2023年4月1日以降は、常時雇用する従業員が1,000人を超える企業に対して、育休の取得状況を年1回公表することが義務付けられました。
育休中のお金の問題 「出生時育児休業給付金」とは?
男性にも育休取得をうながす法改正が行われてきたわけですが、現実問題として気になるのが「お金」のことです。
男性の育休取得が進まない理由のひとつに、収入が減ることへの不安が挙げられます。しかしながら、あらかじめ育休中の経済的支援を知っておくと、事前に心づもりができ、不安も取り除けるのではないでしょうか。具体的にどういった支援・制度があるか紹介していきます。
まず育休中に給与が一定以上支払われなくなった場合、育休期間が終了するまで受け取ることができるのが「育児休業給付金」です。
育児休業給付金とは、所定の要件(下図参照)を満たした雇用保険の被保険者に対して、雇用保険から給付されるお金のことです。
上記条件を満たしていれば、正社員、契約社員、アルバイトなどの雇用形態に関わらず、育児休業給付金が受け取れます。
ここでいくつか注意点があります。育児休業給付金は、原則として2カ月ごとに申請を行う必要があり、さらに申請できる時期は決まっています。
初回2カ月分の申請時期は、育休開始から4カ月を経過する日の属する月の末日までです。そこから2週間程度の調査を経て「育児休業給付金支給決定通知書」が出され、その後に振込という流れになります。
2回目以降の申請は、支給対象期間の初日から4カ月を経過する日の属する月の末日までです。
したがって、初回の支給は育休開始から3カ月後くらいと考えておきましょう。2回目以降は、2カ月ごとに同様の流れで給付が行われます。スムーズに給付金が受け取れるよう、産休に入る前に申請手続きについて勤務先と連携しておくことが大切です。
なお、産後パパ育休を取得した場合に受給できるのは「出生時育児休業給付金」といい、支給要件は有期雇用の場合に関する項目を除いて育児休業給付金と同様です。育児休業給付金の1カ月あたりの支給額は以下の計算式で算出します。
休業開始時賃金日額とは、育児休業開始前6カ月間の賃金を180日で割った金額です。支給日数は原則30日として計算します。なお、67%の育児休業給付金が支給されるのは、出生時育児休業給付金を受給した日数も通算した180日分となります。
賃金の67%とか50%と聞けば、育休取得をためらう人もいるかもしれません。しかし、給付金は非課税ですから所得税を引かれることはありません。住民税は前年度の所得をもとにしているため、育児休業中も支払わなくてはなりませんが、翌年度の住民税負担が減ります。
さらに影響が大きいのが社会保険料の免除です。免除期間中も、健康保険の給付は通常通り受けられますし、将来の年金額も減額されることはありません。免除要件は以下の図の通りです。
結果として、給与や加入している健康保険、扶養家族の人数等によって異なりますが、手取り収入はおおむね休業前の8割程度となります(育児休業開始181日目以降は約6割)。手取りで8割程度が確保できるとなれば、受給時期等も考慮し、あらかじめ準備をしておくことで十分対応できるものと考えます。
育休期間こそ“将来”への備えを考えるタイミング
子どもが生まれたら、将来に向けた教育費の準備も考えていく必要があります。この機会に、水道光熱費や通信費などを見直したり、積立定期預金などを活用して自然にお金がたまる仕組みを作ったりするなど、育休期間をチャンスと捉え、今後の家計管理について夫婦でじっくり話し合ってはいかがでしょうか。
なお、自治体によっては、手厚い保育サービスを提供していたり、独自の支援金を出したりしているところがあります。また、ベビーシッターや家事サービスの利用料金を補助するなどの福利厚生制度を設けている企業もありますので、自分たちにとって利用できる制度がないか、早めにリサーチしておくことも大切です。
※このコラムは、2023年6月現在の情報を基に作成しています。