2020年 選考結果
選考委員長による選後評
選考結果 2020助成の選考について
選考委員長
横田 能洋
認定特定非営利活動法人 茨城NPOセンター・コモンズ 代表理事
1991年茨城大学卒業後、(一社)茨城県経営者協会に就職し企業の社会貢献活動推進などを担当。1998年に茨城NPOセンター・コモンズを設立し転職。2015年コモンズ代表に就任、NPO運営相談のほか、若者、移動困難者、外国人、災害被災者など制度外福祉に取組む。自宅のある常総市が鬼怒川水害で被災し、地元の復興と多文化共生に取組む。
お金のつながりから、共に考え、共につくるつながりへ
本助成制度の前に、中央ろうきん社会貢献基金を通じて実施していた「中央ろうきん助成プログラム」には10年以上前から関わらせていただいていますが、今回、「中央ろうきん助成制度“カナエルチカラ”〜生きるたのしみ、働くよろこび〜」と題する助成制度ができる過程でも様々な議論があり、「生きるたのしみ」「働くよろこび」の循環というユニークなコンセプトとなりました。そのコンセプトをしっかり読み取って申請書を作成されたかどうか、そこを中心に選考委員会では熱心な議論が行われました。
本助成制度では、〈中央ろうきん〉営業エリア1都7県を対象にし、各都県で地域のNPO支援組織や〈中央ろうきん〉都県本部のほか、新たに〈中央ろうきん〉の会員団体となる労働団体の方々を加えて、地域の選考(都県選考)を行うという形も従来に引き続き行われました。申請書の書面だけではわからないことについても、都県選考の段階でこんな意見がでていた、という情報が参考になったこともありました。
今回の助成制度では、対象となる活動の一番上に「新たな事業の立ち上げを応援します」と書かれています。現場の団体の方からは「毎回新規性を求められても困る」という声もよく聞きますが、そういう仕組みなので仕方ありません。同じような事業でも視点や切り口、対象や連携先を少し変えるなど、新たな要素を加えることは可能です。実際に今回選ばれた事業の多くは、これまでの事業に新たなテーマややり方を加えるというものが多かったです。
「働くよろこび」とは、考えさせられるテーマです。「就労支援」はよくあるテーマですが、「就労」=「よろこび」とは限りません。仕事があっても、仕事自体がつらい人、働きながら子育てや介護、通院などをしていてつらい人、職場の労働環境や人間関係でつらい思いをしている人など、よろこびを感じられない人が無数にいます。多くの民間助成プログラムには、障がいがある人への支援などが多く申請されます。今回は、上記のような就労していながらもつらい日々を送っている人をも意識した申請がどれくらい出てくるか私自身は注目していましたが、今回は、まだそうした申請は余り見られませんでした。
採択された事業の多くは、公的支援が受けにくい外国籍の方、教育機会が限られる子ども、家族の支援が受けられない若い世代や一人親世帯、外出や買い物で困っている人、偏見にあいやすい人などに寄り添う活動や居場所を作る活動に取組んでいます。私自身もそうした制度外で居場所を作る活動に取組み、人件費や家賃などの捻出に苦労してきたので、申請者の方々の気持ちが伝わってきました。
本助成制度は、そうした固定費も対象にし、最大3年間継続という可能性もあります。さらに交流会などを通して関東の他地域の団体とつながることもできます。この特性をぜひ活かして、チャレンジしていただき、数年の間で、持続可能な体制、財源をつくってほしいと思います。
助成期間が終わった後にも持続できるようにするには、地域の連携団体、応援してくれる人々を増やすことです。今回は、申請段階で〈中央ろうきん〉や労働界への期待について、アンケートを行うというユニークな取組みも行いました。そして、ハンディをもつ人々が働きやすい職場環境を連携してつくろうという声や具体的な提案が沢山寄せられました。これまで労働界とNPOの連携は、一部を除き、なかなか具体化してきませんでした。アンケートで寄せられた声も参考に、各地でまず労働界と市民団体の意思疎通が進めばと思います。ハンディがある人が働きやすい職場を共につくれば、より多くの人が「働く楽しさ」を感じられるようになります。共に活動すれば、市民団体への参加、応援も広がるでしょう。そのようなお金の提供にとどまらない、つながる運動に、この助成制度がなっていけばと思います。
以上